院長エッセイ集 気ままに、あるがままに 本文へジャンプ


日本の正月はいい

 日本の正月はいい。家族、親類、仕事仲間、ご近所を問わず、居ずまいを正して、新年の挨拶を交わす。「今年もよろしくお願いします。」謙虚ですがすがしい。知人・友人の近況を年賀状で知る。子供達を集めてお年玉。その時のこぼれる笑顔を見る幸せ。独楽回し、凧揚げ、カルタ取り。今時の子供も夢中になる。日本の伝統・文化は素性がよろしい。
 カルタ取りといえば、百人一首。思い出す光景がある。正月の朝、母は背筋を凛と伸ばして句を読んだ。さわやかな朝の光の中で、時折吹く風が蕾を宿した寒緋桜の枝を揺らす。子供達は、畳の上のカルタに目を配り、固唾をのんで下の句を待つ。母は諳んじている句を吟じながら、上の句の途中から該当するカルタを探し始める。つまり子供達より探し始める時間が早いわけで、獲得する枚数は常に多かった。最年少の私は、「ずるーい。」と罵りながら、泣きべそをかいた。『知は力である』ことを学んだ。教育とは本来そういうものであろう。
 繰り返しになるが、日本の正月はいい。中高年の世代だけではなく、現代の若者や子供たちも、その一種独特な雰囲気を楽しんでいるのは大いに結構なことである。その一方で、「正月は海外で!」と、たわけたことをのたまう輩がアホづらさげて(失言)テレビのニュースに出たりする。そんな時は、正月にそんな長期休暇も取れず、手元も不如意であるというやっかみを自らのポリシーに上乗せして、「フン」と勢いよくテレビのスイッチを切る。子供の教育には、甚だよろしくない。



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